靱帯損傷(肘)

●靱帯損傷(肘)とは

 靱帯損傷(肘)とは、肘関節を支え安定させる靱帯が何らかの原因で傷つき、部分断裂や完全断裂した状態を指します。肘は、腕の骨と前腕の橈骨・尺骨の3つの骨で構成されており、この関節の安定性を保つために複数の靱帯が存在しています。特に肘の内側と外側にある「内側側副靱帯(UCL)」と「外側側副靱帯(LCL)」がよく損傷します。
 内側側副靱帯は、肘の内側(親指側の反対側、小指側)にあり、関節が外へ広がるのを防ぎます。外側側副靱帯は肘の外側にあり、関節の内側への過剰な動きを制限します。この靱帯が損傷すると、肘の動きの不安定、痛み、機能障害を引き起こします。投球動作を繰り返す野球選手に多くみられ、「野球肘」などで知られています。


●靱帯損傷(肘)の原因

 野球のピッチャーに多い内側側副靱帯損傷は、繰り返される投球動作により靱帯が徐々に伸ばされ、損傷や部分断裂を起こします。バレーボール、テニス、バドミントンなど肘を酷使するスポーツでも起こり得ます。ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツで、相手と衝突したり、不自然な形で腕をひねられたりした際にも発生します。肘の関節が外れてしまう「脱臼」を起こした際には、ほぼ確実に周囲の靱帯も損傷します。
 大工仕事など、ハンマーを繰り返し使うような職業でも発生する可能性があります。

転倒や事故
 自転車やバイクでの事故による転倒、転落など一度に非常に強い力が肘に加わることで起こる損傷があります。転んだ際に手をつくと、その衝撃で肘が本来動く範囲を超えてしまい、靱帯が断裂することがあります。特に肘が外側に強く反らされると内側側副靱帯が、肘が捻られるような力が加わると外側側副靱帯が損傷しやすいです。

日常動作での過負荷
 特に加齢や筋力の低下がある場合、軽い外力でも靱帯が損傷しやすくなります。


●靱帯損傷(肘)の症状

痛み
 肘の内側または外側に痛みが生じ、特に動かしたときや負荷がかかったときに強く感じます。受傷直後は強い痛みと腫れが現れることが多いです。

腫れ・熱感
 損傷した靱帯周辺の炎症により腫れや熱感がみられます。

関節の不安定感
 肘を動かすとぐらつきや「外れる」ような感覚、不安定性が現れることがあります。内側靱帯の損傷では、肘が「外側に開く」イメージの不安定感を感じます。

動かしにくさ・可動域制限
 痛みや不安定により肘の曲げ伸ばしが困難になります。

受傷時の異音
 損傷時に「パキッ」や「ブチッ」と音がしたり、肘に衝撃を感じることがあります。

 慢性化すると肘の動きが悪くなり、日常生活やスポーツへの復帰に支障をきたすことがあります。



●靱帯損傷(肘)の治療

 肘の靱帯損傷は損傷の程度や患者の年齢、活動レベルに応じて「保存療法」と「手術療法」に分けて治療されます。

保存療法
損傷の軽度〜中等度の場合、肘を安静に保ち、動きを制限するためにシーネ(副木)やギプス、サポーターで固定します。固定期間はおよそ2〜3週間が一般的です。

薬物療法
炎症や痛みを抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や湿布が使われます。

リハビリテーション
固定除去後は、肘の関節可動域の回復や筋力強化を目的とした運動療法を開始します。段階的に肘の安定性を高め、再発予防を目指します。

疲労骨折や慢性損傷の場合
野球の投球制限や休養を指導し、肘に負担をかけない生活を心がけます。

手術療法
靱帯が完全断裂で不安定性が強い場合、また保存療法で改善が難しい場合は手術が検討されます。

 代表的な手術としては「内側側副靱帯再建術(トミー・ジョン手術)」があります。これは自分の腱(長掌筋腱など)を使って断裂した靱帯を再建する手術で、主に野球選手など高いスポーツレベルでの復帰を目指す患者に適応されます。
 手術後は、肘の可動域回復と筋力強化のリハビリテーションが必要です。外側側副靱帯損傷の重症例でも同様に靱帯再建が行われますが、症例や患者により具体的な手術方法は異なります。

 肘の靱帯損傷はスポーツ選手だけでなく、日常生活でも起こりうる怪我で、特に肘の安定性に関わる重要な組織が損傷すると痛みや不安定感、動作制限が生じます。軽度の場合は保存療法で回復しますが、重度の断裂や慢性的な不安定性には手術が必要となることがあります。
 肘に痛みや腫れ、不安定感を感じたら早めに整形外科を受診し、正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。治療とリハビリをしっかり行うことで、日常生活やスポーツへの復帰が可能になります。早めにご相談ください。

肘痛疾患(日常よく見られる疾患)

*上記疾患は日常よく見られる疾患です。他の疾患が原因となっている場合もございますので、一度ご来院いただき、詳しく問診・検査を受けられることをおすすめいたします。