●変形性股関節症とは
変形性股関節症は、股関節を構成する骨の先端を覆う軟骨がすり減り、股関節の骨同士が直接ぶつかることで痛みや炎症が起きる慢性的な関節疾患です。正常な股関節はボールとソケットのように骨同士がスムーズに動きますが、軟骨が摩耗することで動きが悪くなり、関節の変形やこわばり、痛みを引き起こします。
この病気は主に中高年、特に女性に多く見られ、身体の重みを支え続ける股関節は加齢とともに負担がかかりやすいため、発症頻度が高まります。また、日常生活や運動の際に脚の付け根(鼠径部)に痛みや違和感が現れることが特徴的です。
●変形性股関節症の原因
変形性股関節症の原因は大きく「一次性(原発性)」と「二次性(続発性)」に分けられます。
一次性変形性股関節症
明確な原因が特定できず、加齢とともに軟骨が自然に劣化・摩耗することで起こるタイプです。日本では比較的少数派とされます。
二次性変形性股関節症
原因がはっきりしているもので、日本人の場合は特に多くみられます。代表的な原因としては、
臼蓋形成不全:骨盤の受け皿(臼蓋)が浅く、股関節の安定性が低い先天的・発育的な異常。これが股関節への負担を増やします。
外傷や骨折の影響
・関節リウマチなどの炎症性疾患
・大腿骨頭壊死症などの疾患
代謝性疾患や感染症の後遺症
など多様な疾患が二次的に股関節を痛める原因となります。
加えて、肥満や筋力低下、運動不足、過度の負荷、姿勢の悪さも症状の進行を促す要因となります。
●変形性股関節症の症状
症状は慢性的に進行し、初期から末期まで段階的に変化します。
初期症状
脚の付け根(鼠径部)に「違和感」や「重い感じ」、「だるさ」や「突っ張る感覚」が現れます。立ち上がりや歩きはじめ、階段の昇降などで痛みを感じる「初動痛」が特徴です。影響が及ぶ場合は、太ももや膝、腰に痛みが放散することもあります。
進行期の症状
股関節の痛みが強くなり、長時間の歩行や立ち仕事で悪化します。
足の爪切りや靴下を履く動作、和式トイレの使用、正座が困難になるほど関節の動き(可動域)が制限されます。関節がこわばり、動かしにくくなります。
末期症状
痛みが常時続き、夜間痛(寝ていても痛い)が出たり、安静にしていても痛みが引かなくなります。
変形が進み、足の長さが左右で異なる場合があります(片足が短くなる)。歩行困難が生じ、足を引きずるようになる「跛行(はこう)」が見られます。家事や日常生活動作が著しく制限され、介助が必要になることもあります。
●変形性股関節症の治療
治療は症状の程度と進行状況に応じて段階的に行われます。
保存療法
生活習慣の改善
体重管理、肥満の解消、股関節に負担をかけない歩行や姿勢の工夫が重要です。長時間立ちっぱなしや無理な動作を避けます。
リハビリテーション・運動療法
股関節周囲の筋力強化やストレッチで関節を支える筋肉を鍛え、可動域を保ちます。無理のない範囲で継続的に行うことが有効です。
薬物療法
痛みや炎症が強い場合は、消炎鎮痛剤の内服や外用薬で痛みを抑えます。また、関節内注射(ヒアルロン酸注射など)で関節の潤滑と痛みの軽減を図ることもあります。
装具療法
歩行補助具(杖など)や股関節サポーターを使用して負担を軽減し、安定性を高めます。
手術療法
保存療法で効果が不十分で日常生活に支障が大きい場合や末期症状に至る場合、手術による治療が検討されます。
人工股関節置換術
損傷した股関節の骨や軟骨を人工の関節に置き換える手術で、痛みの改善と関節機能の回復が期待できます。高齢者でも安全に行える術式が確立されています。
骨切り術
股関節の形状を矯正して負担のかかる部分を変える方法で、比較的若年者や変形が軽度の場合に適応されます。
手術後はリハビリテーションが非常に重要で、関節の動きを取り戻し、筋力を回復させることで生活の質の向上が望めます。
変形性股関節症は加齢や生活習慣に伴う誰にでも起こりうる疾患ですが、早期の診断と適切な治療で症状の悪化を遅らせ、痛みを軽減することが可能です。脚の付け根に違和感や痛みを感じたら、早めに整形外科で相談することをおすすめします。お気軽にご相談ください。