●急性腰痛症(ぎっくり腰)とは
急性腰痛症、一般的には「ぎっくり腰」と呼ばれる疾患は、突然強い腰の痛みが発生する症状が特徴です。欧米では「魔女の一撃」とも表現されるほど、何の前触れもなく極めて激しい痛みが腰を襲うことがあります。発症の瞬間には「ピキッ」という衝撃のような感覚や「ビリッ」と電気が走るような痛みを伴い、場合によってはその場から全く動けなくなるほどのこともあります。
この疾患の正式な医学名は「急性腰痛症」で、日常の何気ない動作がきっかけになるため誰でも発症しうるのが特徴です。厚労省の調査でも成人の4人に1人が一生に一度は経験するとも報告されています。多くは数日から数週間で自然に回復しますが、なかには痛みが1ヶ月以上続いたり、再発を繰り返すこともあります。
●急性腰痛症(ぎっくり腰)の原因
ぎっくり腰の原因は多様で複合的です。はっきり特定できない場合も多いのですが、典型的なパターンとして以下のようなものが挙げられます。
急な動作/無理な姿勢
重い物を持ち上げたり、中腰や前かがみの姿勢から体をひねったりする動作など、急激で不自然な負荷が腰にかかることが多いです。
筋肉や靭帯、椎間板への損傷
腰の筋肉や靭帯、椎間板など柔らかい組織が傷つくことによる炎症や、小さな断裂が原因となることがしばしばあります。
疲労・柔軟性の低下
長時間同じ姿勢が続くデスクワークや運動不足による筋力低下、筋肉疲労、柔軟性不足などでも発症リスクが上がります。
加齢・体型
加齢により腰椎や椎間板が劣化しやすくなり、肥満による腰椎への負荷も関係しています。また、過去に腰痛を経験した人は再発しやすい傾向があります。
他の腰疾患の影響
腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症、分離症などの疾患が背景に潜んでいる場合もあります。
これらが単独または複数重なって発症に至ることが多いです。
●急性腰痛症(ぎっくり腰)の症状
主な症状は突然の強い腰痛です。その痛みは日常生活に支障をきたし、前かがみの姿勢や起き上がる動作などごく普通の日常動作にさえ激痛が走ります。
腰の激しい痛み
くしゃみや咳、立ち上がろうとした時、重い物を持ち上げた瞬間、ほんの少し体を動かしただけでも強い痛みが生じるのが特徴です。
動けなくなる場合もある
痛みによってその場から全く動けなくなることや、寝返りや歩行が困難になることもあります。
下肢への症状
通常は腰の痛みにとどまりますが、臀部や脚にしびれや痛みが放散する場合もあります。その場合は椎間板ヘルニアなど別の疾患の可能性もあります。
安静時痛や慢性化
痛みは安静にすると和らぐことが多いですが、長期に安静にしすぎると筋力や柔軟性が低下し、結果的に慢性腰痛に移行する危険もあります。
重篤な場合
発熱や排尿障害、著しい神経症状(下肢のしびれ・脱力など)がある場合は、重大な基礎疾患が隠れている可能性があるため早期受診が必要です。
●急性腰痛症(ぎっくり腰)の治療
治療の原則は保存療法(手術や特別な処置をせずに経過観察や内服などで治す)です。具体的には以下のアプローチが取られます。
安静
発症直後は痛みが強いため無理せず楽な姿勢で安静にしますが、完全な寝たきりは推奨されません。痛みが緩和したらできる限り通常の生活動作を継続することが早期回復につながります。
冷却・温熱療法
初期は冷却で炎症を抑え、数日たってからは温熱により筋肉の緊張をほぐすとよいとされています。
薬物療法
痛み止めや消炎鎮痛薬(NSAIDs)、筋弛緩剤などが内服や外用薬(湿布)として使用されます。症状が強ければ神経ブロック注射を行うこともあります。
リハビリ・運動療法
痛みがおさまってきたら、医師や理学療法士の指導のもとでストレッチや筋力トレーニングを行い、再発予防と回復をサポートします。
生活指導・予防
姿勢の改善、腰に負担のかかりにくい動作の習得、デスクワークなどでのこまめなストレッチ、適正体重の維持も重要です。
多くの場合、数日から1~3週間程度で日常生活に復帰できますが、症状が長引く場合や神経症状・重篤な症状(しびれ、発熱、排尿障害等)がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
ぎっくり腰は誰もが突然発症しうる疾患ですが、正しい知識と対策により回復を早め再発のリスクを減らすことができます。不安な場合や自身での回復が難しい場合は早めに医師に相談しましょう。