手根管症候群

●手根管症候群とは

 手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)は、手首付近にある「手根管」と呼ばれる骨と靭帯に囲まれたトンネル状の空間で、正中神経が圧迫されて発症する神経障害です。手根管の中には、正中神経のほか、指を曲げる9本の腱が通っています。このトンネル内で神経が圧迫されると、主に手や指先にしびれや痛み、運動障害が現れます。

 本疾患は、特に中年以降の女性や妊娠出産期の女性、手をよく使う職業の人に多くみられ、体中の神経疾患の中でも最も発症頻度が高い部類に入ります。特に閉経期以降の女性では、女性ホルモンの変化が関与しているとされています。


●手根管症候群の原因

 手根管症候群の発症原因は多岐にわたりますが、以下の要素が典型的です。

手の酷使・繰り返し動作
 パソコン作業や手作業、スポーツなど、手首を繰り返し使うことで腱やその周辺組織が腫れ、手根管内が狭くなって神経が圧迫されやすくなります。

ホルモンバランスの変化
 妊娠、出産、更年期など女性ホルモンの変化により、滑膜(腱や関節の周囲の膜)がむくんで手根管の圧力が高まることで発症するケースが多いです。

炎症や外傷
 ケガによる骨折や関節炎、リウマチによる滑膜炎、血液透析に伴うアミロイド沈着なども発症リスクを高めます。

代謝性疾患・病理的要因
 糖尿病、甲状腺機能低下症、肥満がある場合も罹患しやすいとされています。また、ガングリオン(良性腫瘤)や血管腫などの物理的な圧迫も原因となります。

特発性
 はっきりした原因が不明の場合もあり、特に更年期女性に多くみられます。


●手根管症候群の症状

 症状は次のような特徴を持ち、進行度によっても現れ方が異なります。

手指のしびれ・痛み
初期は人差し指と中指を中心としたしびれや痛みが現れます。次第に親指や薬指(親指側半分)まで広がります。発症部位はほぼ正中神経の支配領域に限られており、小指にはしびれが出ないのが特徴です。

感覚低下・こわばり
指先で物を触った時に感覚が鈍くなったり、手がこわばる感覚が生じます。早朝や夜間にしびれや痛みで目が覚めることも多く、この時間帯に症状が悪化しやすい傾向があります。

運動障害・筋萎縮
症状が進行すると親指の付け根にある母指球筋がやせてきます。これによりボタンがかけにくい、細かいものを摘む動作が難しくなる、親指と人差し指でOKサインが作れない、など日常生活に支障が現れます。

軽減サイン
手を振ったり、指の曲げ伸ばしをすることでしびれや痛みが一時的に和らぐことがあります(フリックサイン)。

進行時の注意点
筋萎縮が強くなると痛みやしびれが軽減し始めることがありますが、その場合でも病状は進行しているため注意が必要です。


●手根管症候群の治療

 治療は症状の重さや原因に応じて、段階的に進められます。

保存療法(非手術的治療)
安静・局所固定
 手首を使う動作や負担を減らし、サポーターやスプリントなどで装具固定を行い局所安静を図ります。これにより腫れや圧迫を軽減します。

薬物療法
 消炎鎮痛薬やビタミンB12製剤、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を用いた内服・外用薬、湿布などが使われます。ステロイドの注射による局所療法も有効で、特に症状が強い際に即効性がありますが、再発や副作用のリスクもあります。


物理療法・リハビリ
 温熱療法やストレッチ、体外衝撃波療法(ショックウェーブ)、鍼治療なども症状緩和に用いられることがあります。

生活指導
 手の酷使や同じ動作の繰り返しを避けること、体重管理、基礎疾患(糖尿病や甲状腺疾患)をコントロールすることも重要です。

観血的治療(手術)
手根管開放術
 保存療法で効果が見られない場合や症状が重度の場合、手根管の天井部分を構成する「屈筋支帯」(横手根靭帯)を切開し、正中神経の圧迫を直接解除します。手術法には直視下法(2~3cm切開)と内視鏡法があり、どちらも有効性が認められています。

合併症・術後管理
 内視鏡手術は術後の痛みが少ない反面、まれに神経や血管、腱の損傷リスクも指摘されています。進行により親指の筋萎縮がある場合は、腱移行術も検討されます。

手術以外の新規療法
 近年、炎症血管への動注療法など新しい治療アプローチも登場し、治療の選択肢が広がっています。

 手根管症候群は放置すれば日常生活に大きな支障を来し、重症例では可逆性が損なわれることから、早期発見と適切な治療が極めて重要です

手指痛疾患(日常よく見られる疾患)

*上記疾患は日常よく見られる疾患です。他の疾患が原因となっている場合もございますので、一度ご来院いただき、詳しく問診・検査を受けられることをおすすめいたします。