脂肪腫とは
脂肪腫は、その名の通り、脂肪細胞が増殖してできる良性の腫瘍です。皮膚の下、皮下組織と呼ばれる場所に発生し、体の中で最も発生頻度の高い良性腫瘍の一つです。
脂肪腫は悪性(癌)ではありません。周囲の組織を破壊したり、他の臓器に転移したりすることはありませんのでご安心ください。
主に背中、肩、首、腕、お腹などに多く見られますが、脂肪組織がある場所であれば体中のどこにでも発生する可能性があります。
通常は一つだけ発生することが多いですが、中には複数の脂肪腫が同時に発生する「多発性脂肪腫」の方もいらっしゃいます。
脂肪腫の原因
脂肪腫が発生する原因は、医学的にはまだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が関連していると考えられています。
遺伝的要因
家族や血縁者に脂肪腫ができやすい方がいる場合、体質として脂肪腫ができやすい傾向があることが知られています。特に多発性脂肪腫では、遺伝的な関与が指摘されています。
外傷や刺激との関連(仮説)
過去に打撲や小さな怪我をした場所に、遅れて脂肪腫ができるケースが報告されています。ただし、外傷が直接的な原因なのか、たまたまその場所に発生したのかは明らかになっていません。
脂肪腫は中高年の男性にやや多く見られますが、特別な生活習慣や肥満が直接的な原因となるわけではありません。
脂肪腫の症状
脂肪腫の症状は比較的特徴的で、多くの場合は以下のような症状を示します。
しこり(腫瘤)
皮膚の下にできる柔らかいしこりとして触れます。弾力性があり、指で押すとブヨブヨとした脂肪の塊であることが分かります。多くはゆっくりと数年かけて大きくなります。触ると容易に動く(可動性がある)のが特徴です。皮膚とはくっついていません。小さいものでは数ミリ程度ですが、放置すると直径10cm以上の大きな塊になることもあります。
通常、脂肪腫は無症状で痛みはありません。しかし、まれに脂肪腫の内部に血管や神経が巻き込まれてしまうと、押したときに痛みを感じることがあります(これを「血管脂肪腫」などと呼ぶことがあります)。
また、大きな脂肪腫が筋肉や神経を圧迫することで、違和感や鈍い痛みを引き起こすこともあります。
注意点: 脂肪腫と似た症状を示す、悪性の「脂肪肉腫」という腫瘍もまれに存在します。脂肪肉腫は急激に大きくなる傾向があるため、しこりが急に大きくなった場合や、強い痛みを伴う場合は、必ず専門医にご相談ください。
脂肪腫の治療
脂肪腫は良性であり、無症状で小さい場合は、必ずしも治療は必要とされず、経過観察が選択されることがあります。しかし、以下のような場合は、手術による治療が勧められます。
1. 外科的切除(根治術)
脂肪腫を根本的に治す唯一の方法は、手術によって腫瘍の塊全体を摘出することです。
増大傾向があり、今後さらに大きくなることが予想される、痛みや神経症状(しびれなど)がある、悪性の可能性を否定するために、病理組織検査が必要な場合に手術が検討されます。
手術の内容
局所麻酔(大きなものは全身麻酔や硬膜外麻酔)を行い、皮膚を切開して、周囲の組織から脂肪腫を丁寧に剥がして取り出します。摘出した腫瘍は、必ず病理検査に提出し、良性の脂肪腫であることを最終的に確定診断します。術後は、取り残しがない限り再発することはほとんどありません。